「ほら、姉ちゃん。笹、もらってきたぞ」
「あ、ありがとうジュンくん。じゃあお部屋に置いといてくれる?」
「ああ」

部屋に置かれた、大きく長い1本の笹。
そんなものを何に使うのかまったく見当のつかない薔薇乙女たちは、ただ『?』を飛ばすだけで。

「ジュン? これはいったい何に使うのかしら?」
「おっきな木なの〜…」
「木じゃなくて笹だ。七夕に使うんだよ」

「「「七夕…?」」」




  星に願いを…




「たなばたって…何ですか?」
「ヒナ知ってるの! えーとね、うーとね、お星さまにお願いをする日♪」
「なんかちょっと違うような気もするけど…まぁだいたいそんな感じだな」
「星に…ですか?」
「ああ。この紙に自分の願いを書くんだ」

言いつつ数枚の白い短冊を取り出す。
それぞれが短冊を手に取り、目を瞠る。

「その短冊をお願い事を書いて、あの笹に吊るすの。一番に吊るした子はそのお願いが叶うのよ♪」
「…おい、姉ちゃん。それなんか違うって…」
「ふふふ。高いところに吊るせばそれだけ願いが叶うって言うじゃない。ね?」
「おねがい…叶えてもらえるの? えっとねえっとね、ヒナはね〜」
「ま、待ちなさい雛苺。主人である私が先でしょう。貴方は後よ!」

我先にと短冊を吊るそうとする雛苺をとっ捕まえて、真紅はそのまま雛苺と口論に。
巻き込まれるジュンと、宥めるのりと。

翠星石はひとり、笹を見上げていた。


願いの叶う、祈りの短冊。
一心に願えば…本当に叶うのだろうか…?


(えーと…書くもの書くもの…)


未だ言い争っている四人を横目に観察しつつ、ペンを取る。
一番最初に笹に吊るした者の願いを叶えるというのなら、今が絶好のチャンス。

書いているところを見つからないようにソファーの陰に隠れつつ、いそいそと書き綴っていく。
あまり字は得意ではないし漢字も苦手だけれど、自分なりの思いを、精一杯。

(───書けたです…。あとはこれを…)

あの笹に吊るすだけ。何とかあの四人に見つからないように。
とくに真紅に見つかれば、どうなることやら。あーだこーだと喚くことは間違いないだろう。
誰にもバレないように、ゆっくりと、慎重に。なるべく高い場所を選び、結びつけた。

(できたです…。これで願いが叶うですか…?)

のりは星に願いを、と言った。今は夜。星とは、空に浮かぶ星のことだろうか。
静かに部屋の窓を開けて、外へ出る。屋根の上へと上がって…ゆっくりと腰を下ろした。

見上げた先、一面に拡がる数多の星。埋め尽くすように散りばめられた、眩しい光。
吸い込まれそうな光の下、不意に、何か光の筋がひとつ、目の前を過ぎていく。


「ぁ…!」


速すぎて追えなかったが、たしかに何かが目の前を流れていった。あれも星のひとつなのだろうか。
見逃したことに何となく残念なような気持ちになりながらも、もう一度夜空を見上げる。

短冊に込めた願いをもう一度祈るように、胸の前で両の掌を組んで…そのままゆっくりと瞳を閉じた。


「───…蒼星石…」









「時間か…」

薔薇屋敷の中、蒼星石はひとり呟く。
その彼女の傍ら───ベッドに眠るひとりの老人。契約者であるこの屋敷の主人。
彼の頭上には、夢へと繋がる扉が開いている。
今日も今日とて普段と変わらず、マスターである彼の夢の記憶探しに明け暮れている。

「行くよ。レンピカ」

人工精霊であるレンピカを連れ夢の世界へと入ろうとする蒼星石だったが、外から差し込んでくる光に、足を止めた。

「…何だ…?」

レンピカが窓の近くへと誘導する。それに続くように窓際へと歩を進め、緩く窓を開けた。
ベランダへと出た先、差し込んでくる光の正体に気付いた。

視界を埋め尽くす星の河と、降り注ぐ光の束。
眩しいほどの光を帯びた流星群が、夜の空に幾筋もの流れを描き町を明るく覆っていた。


「流星群……。そうか、今日は…」


七夕という、人間たちの創った特別な日。
願いを込めた短冊を吊るし、それぞれが思い思いに祈りをささげる日。

「願い、か…」

星に祈りを込めなければならないほどの願いなど、今の自分にはない。
そんなものに願掛けせずとも、自分のしたいと思うことは自分の手で叶えるまでだ。
そもそもそんなものを信じる心など、もとより持ち合わせていない。

自分の願い、他人の願いを祈るための儀式など…理解に乏しい。
幸せを願うための言葉や祈りが何のためになるのか。今の自分には到底理解はできない。

そう思っている自分は、偽りではないはずなのに────

「…君は何を願う…?」

誰にとも聞こえないほどの声を、小さく。
降り注ぐ光の中に、その中に映る少女に、語りかけるように。


「…翠星石───」


他人を願う事などしない。見知らぬ誰かの幸福など知る由もない。
自分にとって大切だと思う誰かさえ幸福だと思うのなら、それでいい。

笹も短冊もないけれど、もし今願う言葉があるのなら…
自分の今の想いを…そしてこれからを、この降り注ぐ光の星に乗せて、彼女の元へと届けてほしい。


(…また…泣かせるだけだな)

会うことがあるとすれば、それはまた戦場で。そして敵同士としてだ。
泣かせることしかできないのなら、いっそ会いになど行かないほうがいい。

「──さぁ行こう。早く見つけなければ朝になってしまう」

言って、再び暗い部屋の中へと戻る。
開いている夢の扉から夢の世界へと、姿を消していった。



深い望みなどいらない。
願うことはただひとつでいい。


どうか、君が幸せでありますように…────




 Fin



七夕限定(?)小説です。若干の修正は加えておりますが、ご容赦ください。
これ翠サイドなのか蒼サイドなのか…。原作寄りだけどなんかちょっとおかしいし。おじじ出番なし。
あまりひねりがないかもしれませんが、ご勘弁願います;;