奪いに来るなら、奪い返すだけだ。



  Fearless




「ジュン君。一つ訊いてもいいかい?」

今日も僕たちは真紅たちのところにお邪魔している。
真紅はきっと下の階で紅茶でも飲んでいるんだろうし、雛苺はのりさんの手伝いでもしているのだろう。
二人とも、今この部屋にはいない。

「んー?なんだ?そういえば今日は翠星石は一緒じゃないんだな」

彼が視線を緩く窓へと向ける。机に頬杖をつきながら浅くため息をつく。

「今マスターたちの手伝いが長引いてるんだ。すぐ追いつくから先に行けってさ」
「ふーん?ま、こっちは静かでいいけどな。うるさいトラブルメーカーがいなくて」

彼はそう小さく笑い、視線を再びパソコンに戻した。
翠星石が家に居ないことが嬉しいのか、その顔は緩んだままだ。

そんな様子にふつふつと込み上げてくる怒りを何とか抑え、僕は静かに聞き返した。

「…そんなに翠星石がうるさい?」
「うるさいっていうレベルじゃないんだよなぁ…暴れまくってるし。少しくらい大人しくしてろっての」
「………」

深いため息と共に吐露される彼の言葉にますます苛立ちが募っていく。
かろうじて怒りを抑えてはいるけど、もうそろそろ限界かもしれない。

言葉を返す代わりに、彼を思いっきり睨みつける。
パソコン画面に釘付けの彼は、当然それに気付かない。
気付かず、画面に集中したままさらに言葉を続ける。

「大体なんだってあんなに僕を目の敵にするんだか…理解できないっての」

それはこっちのセリフだ。

理解ができない?そんなのは僕だってそうだ。
君のどこがいいのか、僕には理解できない。理解するまでに至らない。理解する気もない。

僕はこの人間が嫌いだからだ。

翠星石のことをよく知りもしないくせに。
外見や中身に少し触れただけで決めつけたように言葉を並べて投げつけて────挙句には泣かせる始末だ。
何様のつもりなんだと問いただしたいほどに、僕は激しい憤りを感じていた。


そう。僕は彼のことが嫌いだ。
いや、嫌いという領域を超えて、憎い。
僕の一番大切なものを奪おうとする彼が憎い。

きっとこの男はそんなことには気がついていないだろうし、自覚も無いだろう。
その態度が余計に僕の神経を逆撫でし苛立ちを募らせていくということも。

こんな奴に翠星石を渡してたまるか。

こんないい加減な男に大切な姉を渡すことなどできない。渡すつもりもない。
たとえ翠星石が彼に惹かれているということが事実だとしても、そんなことは認めない。僕が許さない。

もし彼が無理矢理にでも翠星石を奪おうとするなら────禁忌を犯そうとも関係ない。僕がこの手で始末する。

「…あ。で、蒼星石。訊きたいことって?」

彼が思い出したように話を振ってくる。
僕の心には彼への怒りが渦巻いたまま。そのとぼけた態度を見ると、余計に。

悟られないよう、普段どおりに振舞う。

「…やっぱりいいよ。改めて訊かなくても判ったから」
「? なんだそれ……、ん?」

首を傾げた後、彼が再び視線を窓へと移す。
その直後、間髪をいれず窓ガラスが粉砕した。

──ガシャーン!!

「ぐえぇ!!?」

窓ガラスを割って襲撃してきた『何か』に、彼は思い切り吹っ飛ばされる。
次いで、ガチャッと何かが開く音。

「あ〜!やぁーっと終わったですぅ〜。あ、蒼星石〜」
「やぁ翠星石。早かったね」

突撃してきた『何か』──鞄から出てきたのは、僕とは対の双子のドール・翠星石。僕の愛しい双子の姉さん。
翠星石はそのまま僕に抱きついてきた。

「蒼星石が先に行くから手伝いいっぱい押し付けられたですよ!」
「ははっ。ごめんごめん。次からは最後まで手伝うから。ね?」
「手伝うだけじゃなくてちゃんと待っててほしいですぅ」
「ん。わかった。翠星石が終わるまでちゃんと待ってるよ」
「ふふ…約束ですよ?」
「はいはい」

苦笑混じりに返してそっと抱き返す。
二、三度ぽんぽんっと背中を撫でていた最中、吹き飛んだまま床で伸びている彼に翠星石が気付いた。

「…何そんなとこで寝てやがるですか、チビ人間」
「…だ…誰のせいだと思ってんだよ…」
「変な奴ですぅ…、! まさかチビ人間!蒼星石に何かしやがったですか!?」
「はぁ!?」
「蒼星石!こいつに何かいかがわしいこととかされなかったです!?大丈夫ですか!?」

軽く体を離して、翠星石が真剣な、心配そうな顔で見つめてくる。

本当に心から僕を心配してくれる彼女が、とても愛おしい。
このまま抱き締めて、離さずにいたいと思うほどに。

「大丈夫。何ともないよ」

その一言で安心したのか、彼女にようやく笑顔が戻る。
花の咲いたような笑顔に、僕もそっと微笑み返した。

パッと僕から離れ、未だ床に伏せったままでいる彼に足蹴りをお見舞いする。

「チビ人間!んなとこで寝てやがったら通れんですぅ!とっととどきやがれですぅ!」
「うぉえ!?いっ、痛って!な、何すんだこの性悪人形!!」
「ひぃー!いきなり飛びかかってくるんじゃねーです!蒼星石ぃ〜」

走ってきてサッと僕の後ろに隠れる。彼は怒りの形相のままじりじりと近付いて。
翠星石は背中にしがみつきながらも、いつものような口調で言い返す。

「そ、それ以上近付いてきたら相手になるですよ!如雨露でギタギタにしてやるです!」
「ほぉー?やれるもんならやってみろよ、この性悪人形」

翠星石は僕の後ろに隠れたまま、彼はそんな僕たちを見下ろしたまま、それぞれ口論が始まった。
言い合う二人の間に挟まれながら、僕はふと考えを巡らす。

ねぇ翠星石。僕は知ってるんだ。
君が、今この瞬間すらも嬉しく思っていることを。
彼と喧嘩腰に言い合っていてもどこか楽しそうに、嬉しそうにしていることが、僕には判る。

いつしか僕の後ろから出てきて、真正面から彼と口論するようになった。
真正面から彼と向き合って、彼の胸倉を掴んで距離を近く、罵声を浴びせる。
彼もそんな彼女にごく至近距離で言い返して。

「(それ以上近付いたら斬るよ、ジュン君)」

僕の心は依然として彼への怒りが、憎しみが、渦巻いたまま。解けることなく支配していく。

ねぇ翠星石。
そんな奴やめなよ。
そんないい加減な男、君には相応しくないよ。

ジュン君なんかより僕の方がずっと君のことを思ってるんだ。
ジュン君なんかより僕の方がずっと君を大切に思ってるんだ。


いいかい?────ジュン君。
翠星石に少しでも触れたら許さないから。


奪(と)れるものなら奪ってみなよ。



 Fin



読んで下さりありがとうございました。
まずはじめに……中途半端ですみません!;;というか何これ?みたいな。えっらく長ったらしぃ〜文で。まとまってんの?的な部分がありますことをお詫びします。;
言い訳っぽく聞こえるやも判りませんが、ぶっちゃけ、蒼星石は黒い方が書きやすいです。(ぇ
真っ黒な蒼い子、大好きです。(何
ではここいらで失礼を。ぺこぺこ;