『第3話 再会《前編》』
翠星石を図書室で待っていた蒼星石は、待っている時間がもったいないと思い、出されていた課題を片しながら時間を潰していた。
「ん…もうこんな時間か。この辺にしとこうかな」
黙々と課題を片付けていたので時間の経過に気付かなかった。
自分の他には誰もいない図書室へとぼんやりと視線を巡らせた後、両腕を上に上げ大きく伸びをして天井を見やる。
次いで思考が翠星石へと向かう。
もうあれから結構経つが、一度も此処には顔を出してきていない。
そんなに時間がかかっているのだろうか?
「様子、見に行ってみようか…」
そう考えるが早かったか、ガタンッと席を立ったところでガララッと図書室のドアが開く音。
視界に入ってきたのは、自分とよく似た容姿の少女。
「翠星石!終わったのかい?」
側まで駆け寄り声をかける。しかし翠星石は緩く俯いたまま何も言わない。何も言わず、ぽすっ、と頭を肩に預けてくる。
「…どうしたの?」
「…なんでもないです。ちょっと疲れただけ、です…」
「そう?…?」
小さく首を傾げ、擦り寄ってくる姉の頭を緩く撫でる。翠星石はそのまま抱きついてきて、蒼星石の背中に腕を回してぎゅっと服を握り締めた。
蒼星石もそっと翠星石の背中と腰に手を回し抱き返した。
しばしの間抱き合って。
このままでいたいけどそうもいかないかも、と思い蒼星石は緩く口を開いた。
「…じゃあ、帰ろうか」
「…はいですぅ」
軽く体を離して視線を交わし合って。二人は学園を後にした。
その帰り道。翠星石の要望で手を繋いで帰っていた蒼星石はふと、そんな姉の姿に違和感を覚える。だが、あえて口には出さなかった。
寮に着き自分達の部屋に入って少し間を置いた頃、ふと、訊ねてみる。
「ほんとにどうしたの?そんなに疲れた?」
「…え?…あ、そ、そうです!今日はもう動きまくって疲れたですよ!もうヘトヘトです!」
不思議そうに訊いてくる蒼星石に、悟られないよう振舞う。ふーん、と呟いて、蒼星石はベッドに下ろしていた腰を上げた。
「なら今日は早く休みなよ。あ、お風呂入る?沸かしてくるから」
「あ……」
蒼星石はそのままお風呂場へ行ってしまった。少ししてから、浴槽に流れる水の音。
部屋に残された翠星石は普段着に着替えようと制服を脱ぎ──かけて、不意に止まる。
「…………」
制服を脱ぎかけていた手を止め、ゆるゆると思考を巡らす。頭に浮かんでくるのは、裏の花壇で会った二人の少年──…。
「─…どうして…」
片手を胸の前で強く握る。不意に零れた声も聞き取れないほどのか細い声。
翠星石は力なくベッドに腰を下ろし、そのまま横になった。
しばらくして、思考は暗転した。
翌日。
蒼星石たちはいつも通りに学園へと向かった。
その通学途中。
「んー…」
「どうしたの?まだ疲れが取れてないのかい?」
並んで歩いて。寮を出てからずっと難しい顔をしている姉に、蒼星石は心配そうに声をかける。
訊いてきた蒼星石の声に唸るのをいったんやめ、翠星石は思案顔のまま話し始める。
「いえ、そうではなくて…ちょっと気になることがあるです」
「気になること?」
「今朝起きたら服が着替えてあったですよ。昨日制服を脱いだ記憶はないように思うですけど…」
むーん、と唸って、翠星石は眉を顰める。その反応にああ、と頷いて、蒼星石が答えた。
「それなら僕が着替えさせたよ」
「はい!?」
「だってあのままじゃ制服がシワになっちゃうし。脱がしたよ」
「なっ…『脱がした』とか言うなです!誤解されるです!!」
「誤解って?」
さらっと脱がした発言する妹に翠星石は顔を真っ赤に。そんな、耳まで真っ赤な姉の姿に蒼星石は意地悪く返して。
「〜〜…も、もう…!とっとと行くですよ!」
「ははっ。はいはい」
真っ赤な顔はそのまま、翠星石はすたすたと歩いていく。
苦笑混じりに蒼星石もその後に続いた。
────ざわざわ
本日付で学園へ通うことになった桃矢と蓮矢。
ずっと廊下へと視線を向けていることに不思議そうに思った男子生徒の一人が声をかけてきた。
「あ、あの子達な。この学園にいる女の子の双子だよ。めちゃくちゃ有名人なんだぜ!」
「へぇ?詳しいな」
「や、まぁ…その、ははは」
「こいつ、お姉さんの翠星石さん狙いだもんなぁ?」
「だーッ!!うるせー!黙れ黙れぇー!!」
「事実だろー?」
からかわれた男子生徒が顔を真っ赤に激昂する。その友人はなおもからかい続け、二人してそのまま追いかけっこ状態に。
桃矢はそんな様子をしばし見てから、ため息をつくように声を漏らした。
「蓮矢。やっぱりあの子…」
「ああ。そうらしいな…」
「さて、どうしたものかな…」
「…………」
小さく耳打ちしあった瞬間、授業の始まりを告げる鐘の音が教室内へと鳴り響いた。
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「あれ…?」
体育の授業の終了時、靴箱を開けた翠星石は小さく声を上げる。そこにはまたしても言わずと知れた白い封筒が一通。
「どうしたの……、あ…」
不思議に思った蒼星石も顔を覗かせるが、察した途端、顔を顰めた。
またか…と再び心にふつふつと怒りが込み上げてくる。
今すぐにでも翠星石から取り上げてビリビリに破ってやりたいところだが、翠星石の気持ちが汲まれるので、それも憚られた。
「…、…、──蒼星石…」
読み終わったのか、視線は手紙に向けたまま翠星石は声をかける。
できるだけ平静を保ち、悟られないよう頷き返す。
「ん、何?」
「先…戻っててくださいです。すぐに追いつくですから」
「……」
蒼星石は押し黙る。
恐らくはその手紙の相手に返事をしに行くのだろうが…ということは判っている。けれど、釈然としない気持ちが渦巻いて。
気になる気持ちをこらえつつ、ゆっくりと翠星石の横を通り過ぎた。
翠星石は昨日の裏庭の花壇へと来ていた。ここで待っていると先程の手紙にそう書いてあったからだ。
「…、─…」
ここの花壇は普段あまり知られていない場所。表の通りからも人目からもあまりつかない、ひっそりとした静かな場所。
こんな隠れ場所を知り尽くしているのは、花や植物好きで、なおかつ園芸部に所属している翠星石くらいだ。他の部員や生徒達は、まずこの場所の存在を知らない。
「あ……」
進めていた足を止める。不意に視界へと入ってきた二人に、ただ、その場に立ち竦む。
ゆっくりと、口を開いた。
「…やっぱり、二人だったんですね…この手紙…」
苦笑混じりに話しつつ、歩みを止めていた足を再び進める。
宛て名は翠星石。差出人は兎屋桃矢。
「すまない。どうしても確かめたかったから」
「………」
桃矢はすまなさそうに軽く頭を垂れた。蓮矢は壁に背をもたせかけて黙っているだけ。
少しの間視線を交わし合って、一息ついてから、翠星石が零すように口を開いた。
「久しぶり、です。桃矢…蓮矢…」
第4話へ続く。
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【次回予告】
未だ信じられない気持ちを抱きながらも、翠星石は彼らと再会する。
驚きと嬉しさが入り混じったような複雑な感覚を持ったまま、ぎこちなく視線を交わし、言葉を交わす。
始めはぎくしゃくしていた振る舞いが、次第に歓喜のものへと変化していく──…。