あかいいとの先は運命の相手に繋がっている…とよく言うけれど。
やっぱりあれは、ただの迷信なんだろうか?
赤い糸の伝説
「翠星石。その毛糸何だい?」
場所は自分の部屋。ふたりで床の絨毯の上に座って話をしている。
二人暮ししているこの広い家では、大抵どちらかの部屋でふたりいっしょに過ごすことが多い。
過ごしている内容については別に何のことはない、他愛のない話をしたり、学園で出された課題をいっしょにやったりと、様々なのだが。
休日の今日もふたりいっしょに過ごしていた。のに。
さっきから翠星石は毛糸で遊んでいる。真っ赤な色のふわふわとした毛糸。
翠星石は今日はどういうわけか、手に毛糸玉を持ってやって来たのだ。
「これはですね、水銀燈にもらったのですよ」
まただ。また出てきた。
水銀燈の名前。
これで何度目になるのだろう?
僕らの一つ年上の…一応友達になるわけだけど。
翠星石は水銀燈と仲が良くて、僕の次くらいにいっしょにいる時間が多い気がする。
「そんなことないですよ」と翠星石は言っていたけど、僕はどうにも納得できなくて。
僕と居るより水銀燈といっしょに居るほうが楽しいのだろうか…とも、子供じみたこともつい思ってしまう。
「……なんで?」
少しムッとしたように訊き返す。
翠星石は気付いた様子はなく、ふわりと微笑んだ。
「あかいいと、のでんせつですぅ」
「伝説?」
「あかいいとのでんせつだからくれたのですよ」
「……?」
ん?と首を傾げる。
翠星石の言うことは、本当に時々だけど、たまに理解しにくいことがある。
今日はさらに訳のわからないことを言っているような気が……
「あかいいとは『うんめいのひと』と結ばれるものなんだって、水銀燈が。」
「…あ、あぁ。そういう…」
言われたことの意味を理解し、傾げた首を元に戻す。
たしかにそういう噂というか言い伝えは、あるにはある。
言いたかったことはそれだったのか…
「だから翠星石が「それほしいです」って言ったのですよ」
「うん」
「水銀燈はくれたです」
「うん」
何のために?
そう訊こうとするより先に、翠星石は赤い毛糸玉から糸を1本長く引っ張り出して、千切った。
「小指と小指に結んで…」
翠星石が自分の小指に赤い糸を結ぶ。
その仕種で、翠星石のしようとしていることを覚った。
(これって…)
察していた通り、翠星石はそのまま僕の手を取った。
「蒼星石の小指は、こっちですぅ」
小指に結んでくれるらしく、翠星石は小さな手で僕の手を取ったまま、やさしく丁寧に結んでくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして、ですぅ」
微笑った僕に翠星石も微笑んで。
もう一度、手元に目を落とした。
互いの小指に小さく結ばれた1本の赤い糸。
細く長いそれは、強く引っ張ったら切れてしまいそうで。
緩い均衡。だけどしっかりと、互いを結びつけるもの。
「このために、水銀燈から赤い糸もらったのかい?」
自分と赤い糸を結ぶためにもらったんだとしたら、自然と表情が綻んでくる。
先程までの苛立ちも、どこかへ吹き飛んでいくようだった。
「はいですぅ」
ふわりとした笑顔で、翠星石は肯定した。
僕の片手を取ったまま、互いの小指と小指をきゅっ、と結んだ。
「蒼星石は、翠星石がいつもいっしょにいたいひとですから」
「───」
いつもいっしょにいたい人。それが=『うんめいのひと』と、翠星石の脳内では一纏めになっているようだ。
何となく『うんめいのひと』違いのような気がしなくもないのだが、
何だかあまりにもむず痒くて、込み上げてくる笑いが抑えられなかった。
翠星石が『その相手』に自分を選んでくれたことが、何よりもうれしかったから。
笑いをこらえる僕を、不思議そうな目で翠星石が見つめる。
こくん、と小首を傾げる姿がなんとも言えずかわいくて。繋いだ小指に、ほんの少しだけ力を込めた。
対の瞳に視線を絡めて、見つめ返す。
「蒼星石と翠星石は、結ばれてるですからずっといっしょです」
「うん。ずっと」
うれしそうに、翠星石が微笑む。僕もつられるように、微笑んだ。
いつかきっと、本当に──この繋がれた赤い糸のように、
彼女が僕を選んでくれたらいいな…と、小さく、願いを込めて。