それは、本当にどこにでもある学園の風景。
しかしそれも時には修羅場と化してしまう。
「ねぇ蒼星石ぃ…そろそろ決着つけない?」
「奇遇だな。僕もそう思ってたところだよ」
青々とした空の下。学園の屋上に浮かぶ二つの影。
互いに付かず離れずの位置関係で、睨み合ったまま微動だにしないふたり。
水銀燈と蒼星石。
彼女達の戦いの火蓋が今、切って落とされた。
勘違いの恋人達
睨み合うふたりの目的は一つ。片思いしている翠星石のことだった。
天然な翠星石は恋愛ごとにめっぽう疎く、蒼星石たちの気持ちにも微塵も気付いていない。
まぁそれ(恋愛)を差し引いたとしても、翠星石は蒼星石にべったりで、水銀燈とも仲良しなのだが。
しかし、ふたりはそんな関係が続くことに苛立ちを隠せず、今日こそはと憎き恋敵を葬り去ろうと、対峙していた。
「早い話蒼星石が諦めたら万事解決なんじゃなぁい?」
「こっちのセリフだ。君が諦めたら済むことだろ」
「貴方はいいじゃない。姉妹なんだから。いつもいっしょにいられるでしょぉ?」
「僕は欲張りだから。それだけじゃ足りないんだよ」
「…ふん。姉妹と恋人の両方を手に入れたいだなんて…わがままもいいところねぇ。愛想尽かされるわよぉ?」
「そうかな?君ほどじゃないと思うけど」
睨み合ったままデッドヒート中のふたりの耳に、ふたりとは別の、第三者の声が響いた。
「ふたりとも何してるですか?」
「「!!」」
聞き覚えのある、少しキーの高いソプラノボイスに、蒼星石たちは一瞬固まった後すぐさま振り向いた。
そこには、ふたりが想いを募らせている少女、翠星石の姿。
翠星石は不思議そうに小首を傾げたまま、てくてくとふたりの元へと歩いてきた。
「蒼星石ここにいたんですね。委員会いっしょにいこうと思って捜してたですのに…」
「ああ、ごめん。じゃあ行こうか」
そう言ってさり気に翠星石の肩を抱く蒼星石に、水銀燈の額にビキッと筋が刻まれる。
そしてそのまま何食わぬ顔で出て行こうとする蒼星石に、かろうじて、怒りを押さえ込む。
「ちょ、ちょっと蒼星石ぃ?貴方何してるのかしらねぇ…?」
「何ってなに。」
「その手は何なのよって言ってるのよ…!」
「ああ、」
これ?
そう言って姉の肩を抱いている手を強く引き寄せ、そのまま抱き締めた。
「ふゃ!?蒼星石?」
「なっ…!す、翠星石!こ、こっちに来なさいよぉ!」
「意味がわからないな。翠星石。行かなくていいから」
「あんたこそどさくさに紛れて調子乗ってんじゃないわよ…!」
「何のことだかわからないな」
言い合うふたりに挟まれながら、蒼星石の腕の中、翠星石は視線をふたりに逸らす。
ふたりを交互に見つめた後、ぽんっ、と掌を合わせ叩いた。
顔を上げ、身を乗り出す。
「ふたりとも、仲良くなったんですね!」
「「……え?」」
なんだって?そう言おうとするより先に、翠星石は構わず続けた。
「だっていつも顔あわせるたびにケンカしてたじゃないですか。ちょっと困ってたですよ」
「あ、だからそれは…」
君(貴方)が原因なんだけど…と言おうとするも、翠星石はひとり、嬉しそうに話すだけ。
「でもあれですよ。『ケンカするほど仲がいい』とかって言うですし…ふたりとも、ほんとは仲良しだったんですね?」
「い、いや、違うって。翠星石…?」
嬉しそうにうんうん頷きながら話す翠星石に、ふたりの顔色が青ざめていく。
翠星石を取り合ってケンカやら言い争いやらを繰り返しているというのに、仲がいいだなんて誤解もいいところだ。
早く誤解を解かなければ…!
ふたりがそう思い立って口を開いた瞬間、
「「仲良しなんかじゃない!!」」
ものの見事に、絶妙なハーモニーを奏で、ふたりの声が重なった。
「ほら、やっぱり仲良しですぅ♪」
「「ち、ちがう…!ちがう(のよぉ)んだぁあ───!!」」
校舎に響くほどのふたりの大絶叫は、授業開始の鐘の音に掻き消され、空へと抜けていった。