──これはいったいどういうことだろう?
真っ先に頭の中に浮かんだ言葉は、ただの何とない疑問だった。
「翠星石…?」
「何ですか」
「僕のセリフだよ、それ…」
今自分の感覚で判るもの。背中に当たるソファーのふわふわとした綿の感触。押さえつけられた両腕。
そしてすぐ目の前にある、自分の双子の姉の顔──
押し倒された、状態だった。
形勢逆転?
今日も今日とて祖父母が家を空けているため、留守を預かっていたのに。
二人きりになって翠星石に名を呼ばれた瞬間、視界が反転した。
いつもはまったく逆の立場なのに。今日に限ってどうして。
「おとなしくしてたほうが身のためですよ」
「最初からおとなしくしてると思うんだけど…」
「! い、いいからそのままじっとしてろです!」
言いつつ、翠星石は何とか平静を保つのに必死だった。
その脳裏を駆け浮かんでくる思考回路は、すでにショート寸前だった。
何故今日に限って蒼星石を押し倒す羽目になったのか。
それはある意味での、翠星石の気まぐれだった。
いつもいつも自分ばっかりが襲われて、押し倒されて。こっちが油断していると本当にもうあっという間に。
それこそ朝だろうが昼だろうが夜だろうが、見境なく。
嬉しいという領域を超えて、正直、ちょっぴりムカッとくる。
いつもいつも襲われるこっちの身にもなってみろ的な考えが一瞬頭をよぎり、思い立った矢先。
つい、行動に移してしまっていた。
しかし。
ここで大問題が、ひとつ。
(…え、と…この先は…、…?)
そう。『やり方』がわからない。
いつもされている側なので、いざ考えてみるとどういう手順なのかがまったくわからない。
(蒼星石はいつも……えーと…)
蒼星石はいつもどうしてたっけ?、と記憶を手繰り寄せてみる。
いつもいきなり抱き締めて、そのままソファーだの布団だのに押し倒して…
キスをしたり耳元で甘い言葉を囁いたり首筋を舐めたりしながら服を脱がしていって──
ん?
ちょっと待て。
(ちょ、ちょっと待つですよ…)
もう一度、記憶を辿ってみる。
いつもいきなり抱き締められてその場に押し倒されるのは、いつものこと。
そのあとキスだの何だのされたりも、これまたいつものこと。
そして気がついたら服が脱がされていて、そのあとのことは…
(…お、…ぼえて…ない…です…)
覚えていない。蒼星石の腕の中にいると身体中が熱くなって。いつも、いっぱいいっぱい。
『どうやって』いるのかなんてこと、記憶に残っていない。だって、『気がついたら』なんだから。
それに。
(それを…全部一度に…です…?)
『そんなこと』をしながらなんて、自分には到底できそうにない。
考えただけで恥ずかしさが身体中から込み上げてきて、途端に顔が紅く染まる。
動こうにも動けない状況下の下、固まったまま百面相する翠星石に、蒼星石はクスッと微笑った。
「仕方、わからないんだろ?」
「ぁ、ぇえ!?」
いきなり耳に飛び込んできた声に思わずびくっと。
視線を落とした先、すぐ下にいる蒼星石は変わらずとクスクスと微笑みながら、腕を押さえる自分の手を取った。
「そんなに顔真っ赤にしちゃって」
「う…」
「慣れないことするからだよ」
言いつつゆっくりと半身を起こし、うーうー唸っている姉と視線を交わした。
「何でこんなことしたのさ?」
「…、だ、だって…蒼星石は…ずるい、です…だから…」
だから、ちょっとした腹いせにいつものお返しをしてやろうと。
そう思っていたのに、どうしたらいいのかわからないだなんて…
「そんなことか。ほんとに気まぐれだね、君は」
涙声になってくる姉に苦笑しつつ、そのままゆっくりと前のほうへと体をかがめ体重をかけていって…
先程までの体勢を入れ替える格好へと持っていった。
「気にしなくていい。君が喜んでくれるのが、僕は一番うれしいんだから」
さらに顔を真っ赤にする姉に微笑みつつ、蒼星石は続けた。「でも…」
「教えてあげようか?」
「え…、え!?」
言葉を反芻し意味を理解した翠星石はピシッ!と固まる。
その反応に満足そうに、蒼星石は意地悪そうに微笑み、翠星石の耳へと辿った。
甘い声で、囁く。
「知りたいんでしょ?」
囁かれた声とともに熱を帯びてくる身体を保ちつつ、翠星石は思う。
ああ、もうほんとに、この子には敵わない…
そして実感する。
これから先この形勢維持が入れ替わることは、皆無に等しいものであると…。