──もう、あなたはいない
動くことも話すことも──二度とない

祈ることがだめでも…
願うことがだめでも…


それでも私は…もう一度あなたに会いたい───




  願夢




あれから、いったいどれほどの刻(とき)が過ぎたのだろう。
あれから───そう。蒼星石のローザミスティカが奪われてから、もう何日?


わからない。そんなこと…意識の片隅にすらない。
蒼星石が動かなくなったその瞬間から──翠星石の時間も止まってしまったのだから。

「…蒼星石…」

どうして、私を置いていったのですか?
ずっといっしょにいると…誓ってくれたはずなのに。
どうしてひとりだけ…先に行ってしまうのですか…?


その声は小さく、ほろほろと零れていくもの。
自分のすぐ前───鞄の中に横たわる蒼星石に、語りかけるように。

蒼星石は、居る。否、"体"は、ここにある。
ローザミスティカを失い抜け殻だけの存在になってしまったけれど、ちゃんとここに居る。
けれど。

「蒼星石…」

どんなに体を揺さぶっても、どんなに名前を呼んでも…蒼星石はもう動かない。


わかっている。これは、蒼星石が望んだこと。
マスターを護るためにあの子が自ら選んだ道。

わかっている。頭では、理解しているつもりだった。

だけど心は…簡単には割り切れない。


───痛い…───


「……っ」

視界が歪んだ、刹那。何かがひとしずく、手の甲へと落ちる。
そしてそれは止むことなく、後から後から両の瞳から溢れ、すぐ傍に居る蒼星石にも降り注ぐ。
あたたかな涙が止め処なく、ふたりの頬を濡らしてゆく。

「…っ…蒼星、石…そうせいせき…っ」

もう動かない妹を抱き締める。
温もりを失った冷たい体に、自分の体温を分け与えるように、ゆっくりと。


こうしていれば蒼星石は目を覚ます。
目を開けてちょっとだけ驚いた顔で自分を見て…でもすぐに微笑んでくれて…
名前を呼んで…きっと抱き締めてくれるから。


しかし。その願いは虚しくも散っていく。

蒼星石の瞳は開かない。指先1本さえ、微動だにしない。

「そうせい、せき…っ…なにしてるですか……はやく…おきるですよ…」

目を覚ましてほしい
名前を呼んでほしい
もう一度触れ合って…いっしょに笑い合いたい

願いはただ、それだけなのに───


『また泣いてるの?』


不意に、そんな声が聴こえた気がした。
泣き止まない自分を宥めるような、やさしい声。

「…泣いてなんか…ないです…」

今の自分の、精一杯の強がり。
泣いている顔を見られないように、顔を伏せて。

ふたりの涙が溶けてゆく。
腕の中の蒼星石は──変わらずと動かない。けれど。
その表情は穏やかそうに…心なしか小さく微笑んでいるようにも見えた。
きっと、泣き虫な自分を見て呆れているのだろう。
「やっぱり泣いてるんじゃないか」…と、呆れながらも、きっと──微笑ってくれるのだろう。



「蒼星石…きっと、また…会えるときが来るです…。ぜったい、もう一度…」


少し時間はかかるかもしれないけれど、きっと、絶対に。
必ずあの子から…水銀燈から、蒼星石のローザミスティカを取り戻してみせるから。

だから───


「待っていて、くれますか…?」


もう一度会いたいから。
だから祈っていたい。信じて待っていたい。

いつかあなたの処に行く、その時が来るまで────…




 Fin



『この、白い世界で』が蒼星石だったので今度は逆ですね。
タイトルの『願夢』ですが「ユメネガイ」と読んでください。願う夢と書いて、ユメネガイ。夢願ではなくて。
蒼星石のやつもですけど、これ書いてるときに涙腺が緩んでたのは、ここだけの話(笑)。