どんなに足掻いてもヒトツになることのないもの。
僕と、君の────躯
結晶
静謐の夜。
無人の廃墟の空闇に浮かぶ月明かりの下、そっと窓を開けた。
頬を撫でていく風が、火照りを残した身体に心地よい。
「……蒼星石……?」
背後から漏れた小さな声に、ゆっくりと振り返る。それは自分が愛する、ただ一人の彼女の声。
ベッドの上にいるのは、今し方眠りから醒めたからで、シーツにくるまっているのは…昼間、行為に及んだから。
疲れ切っていたのだろう、夜になるまでずっと眠っていたようだ。
音を立てずに窓際を離れ、彼女の元へと戻る。ゆっくりとベッドに腰を下ろし…そっと彼女の顔を覗き込んだ。
まだ少し眠たげに瞬きを繰り返す仕種に自然と笑みが零れる。頬に両掌を添えて、視線を絡めた。
月明かりに照らされ揺らぐ異瞳を向ける、彼女は───双子の姉。
「綺麗だよ」
ふっ…と微笑みを零して囁けば、紅く染まっていた頬がさらに紅く染まる。
夜目にもわかるほどに見事に紅潮した顔を隠すように、彼女はまた異瞳を伏せた。
恥じらう彼女に小さく笑い、再び顔を見つめる。
端整な顔立ちに、まだ幼さの残る表情。それに比べて成熟した躯。しなやかな躯の線が一層美しさを際立たせている。
肩にかかるさらさらとした長い髪も、梳かせば零れるように指先から滑り落ちてゆく。
頬を包み込んでいた掌を離し、そのままやわらかな髪へと滑らせ…片手で一房掬い、口付けた。
「本当に…」
「! そ、蒼、せ……!?」
素直な彼女は当然予想通りの反応を返す。たったそれだけの行為にすらも、耳まで真っ赤にして。
そんな彼女を見る度に、ただ胸にあたたかさが満ちる。
そしてそれと同時、湧き上がってくる衝動。
「欲しいんだ、全部。…君の全部を、僕に…」
無垢な異瞳に、紅潮した頬に、艶のある唇に、ゆっくりとキスを落とす。
触れながら、再び押し倒すように、ベッドに彼女を縫い付けた。
躯を覆い隠すシーツを剥がそうとした矢先、彼女──翠星石が口を開いた。
「…もう翠星石は蒼星石のものですよ…?」
「───」
不意に頬に触れる感触。ひやりと伝うのは、彼女の指先。
戸惑いがちに自分の頬に伸ばされた手を取って、そのまま指を絡めた。
「…ダメ、なんだ…」
見つめ合ったのも僅か。
絡めた指先に力を込めて、何か言おうとする翠星石より先に、口を塞いだ。
微かに触れるだけのそれをすぐに離して、囁く。
「君が、……足りないんだ…」
「…ひぁ…あぁ…っ」
夜を裂く声が聞こえる。
誰も居ない…否、二人だけしか居ない静かな場所で、その"声"だけが谺する。
「…イッてもいいよ」
囁くように促せば彼女は素直にそれに従い達してしまう。
一際甲高い嬌声が上がり、ぐったりと体重を預けてくる。快感の余韻に浸るように、その華奢な体はびくびくと震えていた。
体を預けてきた彼女をそのまま抱き締めて、背を撫でていく。
姉である彼女とこうして体を併せるのは、今回でいったい何度目になる?
初めて併せてから…もう何度繰り返してきたかわからない。
もう今となっては毎日のように繰り返している。
彼女と…もっと深く繋がっていたくて。もっと、深く…ヒトツになりたくて。
でも、どんなに強く求めても、どんなに強く抱いても…決してヒトツにはならない。なることはない。
どれだけ繰り返しても、満たされない。
満たされないから、繰り返す。
充たされないと、知りながらも。
「……蒼……星石……」
乱れる呼気に阻まれながらも僕を呼ぶその声が、ひどく扇情的で、言い知れぬほどの快感が身体の奥を迸る。
弱々しくも背に回ってくる細い腕も、服を握り締める手も、全て自分を求めるもの。
彼女のか細い吐息を首筋に感じながら、抱き締める腕に力を込めた。
「…好きだよ。翠星石」
抱き締めたまま、耳に舌を這わせていく。首筋へと滑らせ、強く吸い上げた。
彼女はただくすぐったそうに小さく震えるだけで、その身は僕に委ねたまま。
「ひゃ…っ…ぁ…」
零れる甘い声を耳に溜めながら、舌を這わせる箇所を首筋から徐々に下げていく。
痣を刻みつけながら鎖骨をなぞり、双丘の間に辿ったところで、止まる。
いつ見ても見惚れてしまうほどにバランスの取れたそれ。眩暈を覚えるほどに綺麗であると、心から思う。
焼き付けるように見つめながらもゆっくりと舌を這わせ、口に含んだ。
「っあ…! やっ…」
途端に今までよりも甘い声が上がる。
いつもより敏感に喘ぐのは、きっと昼間の名残がまだ残っているから。
「気持ちいい?」
「やぁ…っです…、聞かな…、で…っ」
異瞳に涙を溜めて震える姿がとても愛らしくて。
快感や羞恥を必死に耐えようと、首を左右へと振って俯いていた。
肌に埋めていた顔をゆっくりと上げ、自分より若干上目にいる姉を見つめた。
「我慢しなくていいよ。声を聞かせて?」
「…蒼星…石ぃ…」
潤んだ異瞳が見つめ返す。
自分と同じ異瞳なのにも関わらず綺麗だと思うのは、それが彼女のものだからだろう。
夜に浮かぶ異瞳が、自分を求める声が、胸をざわつかせる。
───もっと抱き締めたい───
衝動が溢れる。抑えられない。
絡めていた視線を落とし、再びゆっくりと彼女の肌に触れる。
片掌は胸に触れたまま、もう片方の手を滑らせていく。脇腹、腰、腹を撫で、脚へと滑らせ太腿を撫でる。
触る場所にも、その触り方にも、彼女は素直に反応を示す。
そんな彼女の反応や表情を逃さないよう見つめれば、やはり彼女は恥じらうように顔を背けた。
「やっ…、だめ、ですっ……! そんな…、見な…っ…で…」
恥ずかしさのあまり顔を両手で隠してしまった。
そんな姿に微笑みながら、ゆっくりと手を剥がし視線を絡める。
絡んだ異瞳には先程よりもたくさんの涙が溜まっていた。
「ダメだよ。全部見せて…ね?」
優しく諭すように紡いで、手をどけさせる。取った手を伝い、もう一度指を絡めた。
自分より体温が低いのか、絡んだ指先はやはり冷たい感触を錯覚させる。強く握り返して、先程の行為の続きへと戻っていく。
「ひっ…や…っあぁ…」
舌先が軽く肌に触れるだけでも、彼女はすぐに甘い声で啼く。
その声に煽られ、強弱をつけながら肌に吸い付いていって、ゆっくりと、手を脚の間へと滑らせる。
途端に彼女の体が大きく跳ねるが、そのまま探るように撫でつけ…すでに濡れそぼっている部分に触れた。
なぞるように触れながら、不意に指先を止めた。
「…どうして僕たちは二人なのかな…」
「ぅ…、ふぇ…?」
「僕はこんなに君と」
聞き返してくる彼女の言葉を無視するように、這わせていた指を中へと押し込んだ。
「ヒトツになりたいのに」
喘ぐ彼女もそのまま、ゆっくりと動かし始めた。
「ひやぁあ…っ…! そう…せい、せき…っ」
「君はどう思う? 翠星石…」
彼女へと顔を近付ける。
顔を真っ赤に染め上げ涙に濡れた異瞳を向ける彼女は、呼吸を整えようと酸素を求めていた。
唇を寄せながら耳元へと辿り、囁く。
「僕は君とヒトツになりたいんだ…」
たとえ禁忌だったとしても。
僕たちは二人で一人。
僕は君で、君は僕なのだから。
許されなくてもいい。
愚かでもいい。
もっと…どこまでも深く、繋がっていたいだけ。
「……っ、……です…」
呼気に阻まれながらの小さな声が耳朶に響く。
もう一度聞き取るように、彼女の顔を覗き込んだ。
「私も…貴女、と……ヒトツに、…なりたい、です…」
涙で途切れながらも紡ぐ声とその姿に、胸の奥から愛しさが溢れてくる。
額を突き合わせるように、さらに距離を縮めた。
膣内(なか)の指の動きもさらに速め、彼女の快感を貪る。
「っふ…やっ…! あぁ…っ…ぅ…、でも…」
「"でも"…?」
何故そこで言葉を足す必要がある?
望んでくれているのではないのか。
「はぁっ…私、たちが…、ヒトツに、…っ…なったら……、あっ…く…!」
言葉を紡がせないように、ただ指を激しく動かす。
彼女は必死にそれに耐え、達するのを我慢していた。
喘ぎながらも、言葉を続ける。
「もう……触れること、が…できなくなる…ですよ…」
「…、──」
「瞳を見る、ことも……、声、も…聞けないです…」
涙で揺らぐ異瞳で、それでも小さく微笑むように。
力が入らないだろう腕を伸ばし、ゆっくりと、両腕を首に回し抱きついてきた。
「翠星石は……いや、です……、蒼星、石に…触れなくなるのは………、や…です…」
「………うん」
空いている片腕で彼女を抱き返す。縋りついてくる体を、きつく抱き締めた。
今の今まで燻っていた蟠りが、溶けてゆく。
「僕も嫌だ。君に触れられなくなるのは…困るよ」
解っていたけど、解りたくなかったこと。
ヒトツに溶けてしまえば、もう互いを愛でることはできなくなる。
名を紡ぐことも、抱き締めることも…永劫失くなってしまう。
解っていた。
だけどそれでも願ってしまう僕たちは────
「…わがまま……ですね……」
「……そうだね…」
ヒトツになることは望む。でも、触れられなくなることは望まない。
これは僕たちの矛盾で…我侭だ。
そう生(な)れたらいいのに───と、ずっと願っているというのに。
「…でも…我侭でもいいよ。僕たちだけがわかっていれば…それでいい」
抱き締める腕にもう一度力を込めた時、耳元で彼女の僕を呼ぶ声と…大好き、と囁く小さな声が聞こえた。
互いの体温も、鼓動も、全てを吸収するように、ただ彼女を求めた。
程なくして翠星石が腕の中でビクビクと痙攣を起こし、達したのを示した。
耐えていた分の快感が一気に押し寄せたようで、達したと同時に意識を手放していた。
眠る彼女の髪にそっと口付けて、きつく抱き締めたまま、眠りへつく。
このまま目醒めなければいいと、強く願いながら。