壊したい
壊したい
壊したい



────君を





  fragile〜コワレモノ〜




「それであいつ何て言ったと思うですか? それはですね〜──」

まるでバックに薔薇の花でも咲くような煌びやかな空気の中、吐き出されるそれに、蒼星石は何度目かのため息をついた。
隣にいる姉はそんな様子に気付かず、機嫌上々。数時間にも及びつつただひたすら話…いや、惚気続けている。

いったい何がそんなにうれしいのか。

答えは至極簡単で、明確だった。

彼女の契約者───ミーディアムであるジュンが、原因だった。


契約者を違えたふたりは、当然住んでいる場所も異なって。桜田家に住んでいる翠星石に会いに、蒼星石は足繁く通っていた。
だが最近はずっと忙しくて顔を見に行くことすらできず、それに焦れた翠星石が、蒼星石の元へと遊びにやってきたのだ。

祖父母との会話も弾み、過ぎていく時間。
帰らなくていいのかと心配する祖父母たちに「今日は蒼星石のところに泊まるって言ってあるですよ」と微笑んで、
翠星石はそのまま鞄を引きずって、二階にある蒼星石の部屋へと向かっていった。
ほとんど話さない蒼星石に翠星石は尽きることなく喋って。その話の内容のほとんどが、ジュンだった。


『今日もジュンは勉強三昧だった』
『今日もわけのわからん機械で遊んでる』
『口の利き方も態度も相変わらずのチビ人間サイズで──』


それは本当に、尽きることなく。
彼女の口から紡がれる言葉は、妹である自分のことではなく、彼のことばかりだった。


僕の知らないような顔で微笑う。頬を紅く染めて、はにかむような、やわらかな笑顔。


    見たくない


「チビ人間ときたら…あ、でもこの間ですね!」

僕以外の誰かを想って、恋焦がれるように、零れる声。


    聞きたくない


「あれには驚いたですけど…ちょっとだけうれしかったですよ」


   ──壊したい── 

  無垢で何も知らない君の白い心ごと──


「? 蒼星石? どうかしたですか…?」


  ───壊シタイ



ガタンッ!と一際音が響く。気付けば、姉の手を取りその場に押し倒して。
両腕で手首を押さえつけ、強く、重をかける。

「蒼、…星…石…?」
「……」

目の前の姉は当然のごとく状況を、そして行為の意味合いを理解していないだろう。
冗談か、あるいはただの悪ふざけくらいにしか、きっと思っていない。


   頭に来る


「痛…っ」

手首の戒めにぎり…っと力を込める。翠星石が驚愕の目を見開いているがそんなことはどうだっていい。
ただ心を突き動かす衝動に、従うだけ。

姉の両手を彼女の頭の上へと持っていって、片手でひと括りに縛り付ける。
空いたもう片方の手で、ドレスのリボンを解いていく。

「…!? 蒼星石…!? 何を…」
「……」

翠星石が腕を解こうともがくもそんな声は無視した。
聞こえぬふりを押し通し、ドレスを脱がす手を進め……ほんの数秒足らずで、脱がし終えた。

手首の戒めは解かず、そのまま顔を近づけていって…白い首筋に顔を埋めた。

「…っ…蒼星、石…!話を…」
「静かにして…」

遮り、姉の首筋に舌を這わせていく。瞬間、漏れるのは甘い声。
そのまま首筋から耳元までゆっくりと舐め上げていって、耳へと辿る。
耳に舌を這わせ小さく甘噛みしながら、囁くように短く、呟いた。


「うるさいよ」


びくっ、と翠星石の肩が震えた。言葉が出ないのか、ただ身震いするだけで。

「翠星石」

その声は、自分でも冷淡さと白々しさを思わせるもの。
見つめ返してくる姉の異瞳に、一瞬だけ、畏怖を感じさせるものが宿った。


「滑稽だね。人形(ドール)が人間に恋をするなんて」
「え…?」
「好きなんだろう? 彼のことが。」

かぁっ…と翠星石の頬が紅く染まる。ろくに動かせてもいないその口は「ちがう」とでも言おうとしているのか。
…そんな顔、僕にだって見せたことなんかないくせに。

どうして彼なんだ…?



「な、何…っあ…!」

姉の声を無視して、もう一度耳を辿り首筋へと辿る。舌を這わせきつく吸い上げていって…

「ひゃ…っあぁ…」
「いい声だ、翠星石。もっと聴かせてよ…」

はじめは抵抗していた翠星石も、次第に力が抜けていく。手首の戒めを解いても、その手は押し返してきたりはしなかった。
それを確認し、体にも舌を這わせていき…体中に痣を刻み付けていく。自分のものだという証である、濃く、紅い刻印を───



ゆっくりと体全身を愛撫していけば、翠星石の身体はすっかりと出来上がっていた。
本人はまだ抵抗の意思があるようで、その表情や仕種で見て取れる。時折首を振ったりするのも、その証拠だろう。
そして彼女の口から零れる名は…彼女が求める名は…今ここにはいない彼。


   僕じゃない



「ふぁ…っやっ…! ジュ…ン…っ」
「…っ…」


何で。
何で。
僕じゃない?


「やぁ…やめ…やめぇ…て──!」


今ここにいるのは僕なんだよ? 目の前にいるのは僕なんだ。
それなのにどうして君は…彼を呼ぶの? どうして僕の名前を呼んでくれない…?

僕はこんなにも君を求めているのに。
どうして君の瞳に映るのは僕じゃないの?


「翠星石…」


苛立ちが、焦燥が、胸を焦がす。
姉の体を支えていた片手を、肌をなぞり下へと伸ばしていって、脚の間へと入れた。
途端に跳ねる姉もそのまま、脚の間を手で探っていく。指先に触れる微かな水音と、同時に上がる甘い声。
涙声に近い声で止める姉を無視して、指を中へと押し込んだ。

「んやぁ…っ…だめ、です…っ…抜い…」
「抜かない。…抜いてやらない。」

君が悪いんだから。
小さく呟いて、奥を目指す。奥まで押し込んでゆっくりと動かして、姉の甘い喘ぎ声を誘う。
指を動かすたびに跳ねる姉を眺めつつ、追い上げていく。


胸の奥に渦巻く衝動が止まない。
焦燥感。猜疑感。独占欲。
どろどろとした感情が消えることなく胸を燃やし、焦がし続ける。


「あっ…んぅ…っ! あぁ…っ」
「…早いね。もうイきそう?」

姉の様子が次第に変化してきた。おそらく、もうすぐで限界を迎えるのだろう。
彼女は否定するように必死に首を振っていたが、そんなものは通用しなかった。

「ここ、こんなに濡れてるんだよ? 音もすごいし…いい加減に認めなよ」

言っても、彼女は涙をほろほろと零しながら首を左右に振るだけ。その態度が余計に頭に来る。
もうこんなになっておいて、何を今更。
態度や口でちがうだの言っていても、身体は素直に反応する。彼女はそれを…認めたくないだけ。

実の妹に犯されているという事実を…身体全身が、頭全部が、否定しているのだろう。


「っ…はぁ…っ…なん、で…」


涙を溜めた瞳が問う。何故、こんなことをするのか…と。


「"なんで"…?」

そんなことすら…君は理解(わか)ってくれないのかい…?
いちばんにそばにいるのに。こんなにも…近くにいるというのに。


どうして、君は────…



「僕は、君が…───」





彼女の異瞳には、ただ畏怖だけが宿る。
行為を進めていく中で再び彼女の口から漏れた名は…やはり僕ではなかった。

何度抱き締めても、何度口付けを交わしても…僕の名は拒絶の意味でしか紡がれない。求められることは、ない。



「っ…ジュ……ンん…」



耳元で囁かれる言葉を聞いた刹那。僕の理性はガラスが割れるように粉々に砕け散った。







濡れた音。荒い息遣い。甘い声。
止むことのない、僕らだけの時間。
彼女の声も涙も笑顔も…全て僕のものだ。
身体中に刻まれた痣に触れながら、再びゆっくりと首筋に刻印を印した。








行為後、翠星石は疲れきって眠ってしまった。いや、気を失ったのか、もしくは壊れてしまったのかもしれない。
指先一つでさえも動かさず、ぐったりとしているから。
でも、それならそれでいい。壊れて、潰れて、何もわからなくなってしまえば…そのほうがいい。
何もかも忘れて…そうすればきっと、彼のことだって…───


僕以外の人を慕(おも)い恋焦がれる君のその心を…振り向かせることができるなら。
僕だけしか判らないように、全て自分のものにできるなら……

僕はきっと君を壊すことを厭わない。

君を壊してでもいい。必ず自分の…自分だけのものにする。


眠る姉の髪をそっと梳いていく。指先で首筋に触れて…やがてゆっくりと刻印に口付けた。




 Fin



ジュン←翠←蒼。みたいな感じ…なのか? これ。というよりすんげーどろどろしてる。暗い…orz
書いてて何か蒼星石が報われない感は否めなくて。こりゃーちょっと切な…すぎるかな。
蒼は翠を壊してでも自分のものにしたい…なんてどっかで思ってたりするんですよ。…多分。