友達と恋人の境界線を、彼女は知っているのだろうか。
「ん? あれは……」
「───水銀燈、ありがとうです。助かりました…」
「お礼なんていらないわぁ。貴女のためだもの」
「………」
それは、いつも見ている光景のはずだった。
いつものように、翠星石が水銀燈と話しているだけ。
友達同士である二人の会話だ。何をおかしいと思うことがある?
廊下で会えば挨拶でもするだろうし会話だってするだろう。
ふざけついでに肩に触れたり手を握ったりも、…ある時はある。
解って、いる。頭では。
だが胸の底からムカムカしてくるものに、蒼星石の堪忍袋の緒が切れた。
彼女と彼女の事情
「あ、蒼星石!」
何食わぬ顔で教室へと戻ってきた姉に、蒼星石はあからさまに不機嫌顔を曝け出し、顔を背けた。
こんなイライラした態度を下級生が見もすれば間違いなく卒倒してしまうだろう。…当然、驚きすぎて。
「待っててくれたのですか? 言ってくれれば…、───?」
「……何?」
「蒼星石…怒ってる、ですか?」
相手の変化になどすぐに気付くのは、双子であるが故の二人にとっては当然のこと。
恐らく他者から見たならば蒼星石は普通の顔をしているのだろう。
だが翠星石はすぐさま見抜く。今蒼星石は最高に機嫌を損ねていることに。
「…私が何かしましたか…?」
しゅんとしたように問いかける翠星石に、蒼星石は一度だけ視線を向けて…
「うん」
正面切って言い切って、目の前にある腕をぐいっと引いて抱き寄せる。
とす、と軽い音を立てて、翠星石はその力に従い素直に蒼星石の胸に飛び込んだ。
「さっき水銀燈と一緒に居たよね」
「え? …あ、見て…!?」
「なんで?」
胸の中に飛び込んできた彼女をそのまま抱き締めて問えば、彼女は慌てたように弁解し始める。
妹の怒っている原因を知ったからか、それとも誤解をされたくないからなのか。
どっちにせよ、蒼星石には都合が良かった。
抱き締めたまま、耳元に唇を寄せる。
「浮気はダメだって、何度も言ってるだろう…?」
「え───ひゃぁ!?」
翠星石が聞き返すより先、耳をぺろりと舐めた。
あわあわと慌てる彼女もそのまま、露になっている首筋に吸い付いていく。
ゆっくりと制服のネクタイを解いたところで、待ったをかけられる。
「ちょ、ちょっと待つです///」
「何。」
「何…、って、ここ学校ですよ!?」
「うん」
「うん、じゃなくて…、しかもこんなところで…。見つかるですよ!」
「だから?」
抵抗する翠星石も気に留めず、蒼星石は澄ました顔で彼女の制服を緩めていく。
ブレザーを脱がしてブラウスのボタンに手を掛け…ようとして、また制止がかかる。
「だからじゃなくてですね///! 時と場合を考えろって言ってるんです!」
「翠星石」
人差し指を彼女の唇に当てて、声を潜めるようにして顔を近付ける。
一度だけ周りに目配せしてから、再度忠告を促した。
「声が大きい。ね?」
「う……」
「大丈夫だよ。人が来る前に済ませるようにするから」
まぁとっくに下校時刻は過ぎてるし、もう残っている人物といえば先生くらいなもの。
万一見回りの先生に見つかりでもすれば、二人して即生徒指導室行きだろう。
なるべく音を出さないよう、声を出さないよう、注意しながら、蒼星石はゆっくりと自分の制服を脱いだ。
「……っふ…、ぁ…」
「声出したい? 翠星石」
蒼星石は翠星石を床に倒し、ブラウスや下着を全て脱がして、その肌に貪りついていた。
彼女は肌を撫でる度に甘い声が漏れそうになるのを必死にこらえ、その口を両手で塞いで、ただ震えるだけ。
羞恥に耐える姿がとても愛らしくて、つい意地悪じみたことを言ってしまう。
「出してもいいよ? イク時はどうしたって声出るしね」
「ん…っ…やぁ…!」
「我慢しちゃって…かわいいな」
意固地な彼女はこういうときは素直に聞かない。そんな仕種すらも愛おしくてたまらないと感じてしまう自分は重症だと思う。
羞恥から零れる涙が頬を伝い、床に零れ落ちてゆく。
翠星石の体が汚れないよう真下に敷かれた蒼星石の制服の上。涙の痕が、溢れていく。
また彼女の体が痙攣し始めた。達するまで時間の問題だろう。
つい先程も達したのだが、彼女は声を抑えたまま果てた。羞恥からだとは思うが、やはり声を聞きたいと思うもの。
手をどけさせようとしても離そうとはしないから、余計に。
「手、離してよ? キスができない」
言っても、彼女は喘ぎながらも首を横に振るだけ。
しかし腕力はこちらのほうが上なので、少しだけ力を入れて、口を覆う両手をどかした。
手が口を離れた途端、震えるような甘い声が漏れる。
やっと聞けた声に微笑みつつ、唇を重ね合わせ、口内を貪る。逃げようとする彼女の頭を押さえ込んで、深く、何度も口付けた。
教室中に響いていた水音がさらに大きくなったと同時、彼女の痙攣が一際大きくなって、体が跳ねる。
どうやらもう限界のようだ。
「ぅぁ…あっ…、そう、せ…っ…、もう…っ」
「イク前に教えてよ。何で水銀燈と一緒に居たの?」
ろくに言葉も紡げないことをわかっていて、意地悪く問う。
唇が触れるか触れないかの距離に互いの顔があるため、その声は内緒話のようで。
「っあぁっ…、ぐうぜん、です…っ…」
「ほんとに?」
「ほんと、です…っ! ほんとに、何にも……っ、っ…」
ガクガクと震える体と、もはや抑えることも叶わぬほどに甲高い声。
もう正常な思考など存在しない。
「…うん。イッてもいいよ」
意地悪く微笑んだまま、唇を耳へ寄せ、軽く噛む。
我慢を解くように囁けば、縋り付いてくる腕の力が強まって…
「…っあああああぁっ」
ほぼ悲鳴にも近い声を上げ、翠星石は果てた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「園芸部の花壇の調整…そういうこと」
行為後。
ようやくまともに喋ることができるようになった翠星石からの説明に、蒼星石もようやく頷く。
花壇の数が少ない園芸部として、そしてその部長として、生徒会長である水銀燈に相談していただけのこと。
要はちょっとした早とちりだったわけだが、それでも悪びれるつもりなどは一切なく。
教室の隅に隠れて着替えている彼女に、床に敷いていたブレザーを取りつつ、ゆっくりと立ち上がった。
翠星石の涙やら互いの汗やらその他で濡れてしまったそれを肩に掛け、隅へと移動する。
「それならそうと言えばよかったのに」
「〜〜っ…言わせないようにしたのはどこの誰ですか!」
「君が浮気するからじゃないか」
「だからしてないですってば!」
「してたよ」
「え?」
まだ着替え終わらない彼女もそのまま、近付いていって…
顔を覗き込むようにして、視線を絡めた。
「"水銀燈と一緒に居た"でしょ?」
「…そ、それは友達として…」
「それに"笑ってた"から」
自分以外の誰かに嬉しそうに微笑んでいたから。
「だから、お仕置き。わかった?」
にっこりと笑顔で言ってやれば、わなわなと震えるように、その顔はまた真っ赤に染まっていく。
どあほう! と叫ぶ声とともに、顔面に彼女のブレザーが投げつけられた。